読めるのに、話そうとすると言葉が出てこない。その理由は、日本語と英語の仕組みの違いにあります。どこでつまずくのか、なぜそこなのかを順番に見ていきます。
学校で英語を学んだ日本人の多くは、英文をかなり読めます。単語も文法も相当な量を知っています。それなのに、会議で発言しようとした瞬間に言葉が出てこない。これは努力が足りないからではありません。日本語と英語は、文を組み立てる順序、名詞の扱い方、音の区切り方のどれをとっても、正反対と言ってよいほど違う設計になっているからです。
まず語順です。日本語では述語が文の最後に来ます。「私は昨日、駅で田中さんに会いました」は、最後まで聞かないと何をしたのか分かりません。英語は主語のすぐ後に動詞を置き、I met Ms. Tanaka at the station yesterdayと、結論から先に言います。日本語の感覚で文末から組み立てようとすると、英語では最初の二語で止まってしまいます。さらに日本語は、分かりきった主語を言いません。「行きます」だけで文になりますが、英語ではI'll goと主語が必要です。主語にあたるものがない「雨が降っている」でさえ、It's rainingとitを置きます。
次に名詞です。日本語の「りんご」は、一個でも十個でも、特定のりんごでも不特定のりんごでも、同じ「りんご」です。英語では名詞を口にするたびに、an appleなのか、the appleなのか、applesなのかを決めなければなりません。「三冊の本」と数を言っても日本語の名詞の形は変わりませんが、英語ではthree booksと名詞そのものが複数形になります。日本語では文法としてこの判断を求められることがないので、英語を話すときには文の途中で毎回、小さな選択を迫られることになります。
そしてカタカナ語です。日本語は英語から大量の言葉を取り入れてきたので、知っている単語は最初から多くあります。ただし、カタカナになった時点で、その言葉の音と意味は日本語のものに変わっています。「マンション」は英語のmansion(大邸宅)ではありませんし、「ストライク」は五拍ですが、strikeは一音節です。見覚えがあるからこそ確かめずに使ってしまい、誤解されても気づかない。ここに日本語話者ならではの落とし穴があります。
音の組み立て方も違います。日本語の音はほぼすべてが母音で終わり、一拍一拍の長さもそろっています。英語は子音で終わる音節がごく普通で、強く言う音節と弱く流す音節の差が大きい言語です。日本語のリズムのまま英語を話すと、一つ一つの単語は正しくても、相手には聞き取りにくい英語になります。返事の仕方さえ違います。「行かないんですか」と聞かれて「はい」と答えれば、日本語では行かないという意味ですが、英語でYesと答えると、行くという意味に受け取られます。
このページでは、日本語を話す人が英語でつまずきやすい点を、次の四つに分けて解説します。
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英語由来のカタカナ語は日本語の中に大量にあり、その多くは意味の上では英語と変わりません。問題になるのは一部の言葉です。日本語に入ってから意味が変わったもの、英語の部品を日本で組み合わせて作った和製英語、そもそも英語以外の言語から来たもの。どれも見慣れているので辞書を引く気にならず、英語の会話でそのまま使って相手を戸惑わせてしまいます。仕事の場面でよく出てくるものを中心に、本当に言いたかった英語と一緒に挙げます。
覚えておきたいのは、こうした言葉ほど、間違えても直してもらえることはまずない、ということです。相手は意味が分からずに聞き流すか、別の意味で理解したまま話を進めます。見慣れたカタカナ語を英語の文に入れる前に、それが英語でも本当に同じ意味なのかを一度確かめる。遠回りに見えて、これがいちばんの近道です。
日本語の発音で英語を話すとき、問題になるのは個々の音よりも、まず音の組み立て方です。日本語の音は、「ん」と小さい「っ」を除けば、ほぼすべてが母音で終わります。英語では、子音で終わる音節も、子音がいくつも続く音節もごく普通です。この違いが、日本語話者の英語のいちばん大きな特徴を生みます。
子音の後に母音を足す癖。カタカナで英語を書くと、「ン」で書けるnを除いて、子音の後ろに必ず母音が付きます。strikeは英語では一音節ですが、「ストライク」は「ス・ト・ラ・イ・ク」の五拍です。足される母音には傾向があり、ふつうは「ウ」、tとdの後は「オ」、chやjの音の後は「イ」になります。古い時代の借用ではkの後に「イ」が付くこともあり、同じstrikeから、労働争議の「ストライキ」と野球の「ストライク」の二つが生まれました。英語らしく話すには、この足した母音を取り除く必要があります。手がかりはすでに日本語の中にあります。「です」や「ます」の「す」を、多くの人はほとんど母音なしで発音しています。その感覚のまま、desk、street、milkの子音を言い切る練習をしてください。
rとl。日本語には英語のrとlに当たる区別がなく、ラ行の子音は一種類だけです。多くの場合、舌先で上の歯ぐきを軽く一回はじいて出します。英語ではこれが二つに分かれ、rightとlight、riceとlice、correctとcollectはまったく別の単語です。lは、舌先を上の歯ぐきにしっかり押し当てたまま声を出します。rは逆に、舌先をどこにも触れさせず、少し奥へ引いて唇を軽く丸めます。日本語のラ行はそのどちらでもない音なので、そのまま使うと、聞き手は文脈から判断するしかありません。
bとv、fとh。日本語にはvの音がありません。「ヴ」という表記はあっても、多くの人はbで発音するため、voteはboatに、veryはberryに聞こえます。vは、上の歯を下唇に軽く当てて声を出す音です。同じことがfにも言えます。日本語の「フ」は両唇を近づけて出す音で、歯は使いません。そのため、カタカナではfoodもhoodも同じ「フード」になってしまいます。foodは上の歯を下唇に当てて、hoodは唇を近づけずに息だけで発音し分けます。
th、si、tu。舌先を上下の歯で軽くはさんで出すthの音も日本語にはなく、thinkは「シンク」、つまりsinkに聞こえ、thisは「ジス」や「ディス」になりがちです。また日本語では、サ行のイ段が「シ」になるので、seaがsheに聞こえます。カタカナではseatもsheetも「シート」です。sitが別の下品な単語に聞こえる失敗もあるので、sの音を保ったまま「スィ」と言う練習が役に立ちます。同じように、タ行のウ段は「ツ」なので、twoが「ツー」、toolが「ツール」になります。英語のtは、舌先を歯ぐきから離すときに「ツ」のような摩擦を残しません。
リズムと母音。日本語は一拍一拍をほぼ同じ長さで刻み、単語によっては音の高低で意味を区別します。「箸」と「橋」の違いがそうです。英語はこれと異なり、強勢のある音節を強く長くはっきり発音し、それ以外の音節を弱く短く、あいまいな母音にします。bananaは「バ・ナ・ナ」と三拍を均等に言うのではなく、真ん中だけを強く、前後を軽く言います。chocolateはアメリカ英語では二音節で発音されることが多く、「チョコレート」の五拍とは別物です。母音の数も違います。日本語の母音は五つですが、英語にははるかに多くあり、アメリカ英語のcat、cut、cotの母音は、どれも日本語の「ア」の範囲に入ってしまいがちです。日本語には「ビル」と「ビール」のように長さで区別する感覚がありますが、shipとsheepは長さだけでなく音色も違います。shipの母音は、日本語の「イ」より口の力を抜いた、少し「エ」寄りの音です。
語順と主語。日本語は動詞が文末に来て、修飾する部分は名詞の前に置かれます。英語はその反対で、動詞は主語の直後、修飾する節は名詞の後ろに来ます。「昨日会議で会った人」はthe person I met at the meeting yesterdayになり、日本語とはほぼ逆の順番です。「駅で」の「で」のように名詞の後ろに付く助詞も、英語ではat the stationのように名詞の前に置く前置詞になります。主語も省けません。「昨日映画を見ました。すごくよかったです」はI saw a movie yesterday. It was really good.と、二文目にもitが必要です。
「は」は主語とは限らない。日本語の「は」は話題を示す助詞で、文法上の主語とは別物です。カフェで「私はコーヒーです」と言えば注文として自然ですが、これをI am coffeeと訳すと「私という存在はコーヒーだ」という文になります。英語ではI'll have a coffeeです。「象は鼻が長い」も同じで、英語ではElephants have long trunksと、話題だった象を主語にし、「長い」をhaveで言い換えます。英語の文は「何について話すか」ではなく、「誰が何をするか」で組み立てます。
冠詞と数。日本語の名詞は、数も、相手がどれを指しているか知っているかどうかも、文法としては示しません。英語では、数えられる名詞を単数で使うとき、何も付けずに置くことはできません。I have questionではなくI have a questionで、Do you have any questions?は複数形です。初めて話題に出すものはa、相手もどれのことか分かっているものはtheが目安です。I bought a laptop and a bag. The bag was on sale.のように、同じものでも二回目にはtheに変わります。一般論は複数形で言い、「犬が好き」はI like dogsです。冠詞も複数形もなしのI like dogは、食べ物としての犬の肉を指しているように聞こえかねません。
「ている」は一つではない。日本語の「ている」には、動作が進行中であることと、変化の結果が続いていることの、二つの意味があります。「食べている」はI'm eatingですが、「結婚している」はI'm marriedで、I'm marryingではありません。後者は、相手の名前を続けて「これから結婚する予定だ」と言うときの形です。「知っている」もI knowで、I'm knowingとは言いません。「東京に三年住んでいる」のように期間がつくと現在完了になり、I've lived in Tokyo for three yearsまたはI've been living in Tokyo for three yearsです。「彼はもう来ている」もHe's already hereと表します。英語は「変化した結果の状態」と「動いている最中」を、形の上ではっきり分けるのです。
否定疑問への答え方。「コーヒーは飲まないんですか」と聞かれて「はい、飲みません」と答えるとき、日本語の「はい」は相手の言ったことが正しいと認めています。英語のyesとnoは、質問の形ではなく、自分の答えの中身に合わせます。Don't you drink coffee?に対して、飲まないならNo, I don't、飲むならYes, I doです。日本語の感覚でYesと言ってからI don'tと続けると、相手はどちらなのか分からなくなります。迷ったらyesやnoを省き、I don't drink coffeeと文で答えれば誤解は生まれません。
丁寧さは語尾ではなく言い回しで。日本語は「です」「ます」や敬語で、丁寧さを動詞の形そのものに組み込みます。英語の動詞にはそうした形がなく、丁寧さは依頼を疑問文にしたり、couldやwouldを使ったりする言い回しで表します。Send me the fileは、pleaseを付けても指示に聞こえることがあり、上司や取引先にはCould you send me the file?やWould you mind sending me the file?の方が柔らかく響きます。その一方で、敬語のつもりで遠回しにしすぎると要点が伝わりません。形は丁寧に、用件ははっきりと言うのが英語の流儀です。
単語帳は英語から日本語へと並んでいますが、話すときに頭に浮かぶのは日本語の方です。ここでは毎日使う日本語の言葉から出発して、英語では一語に対応しないものを集めました。一つの日本語が英語では二つ以上に分かれるもの、逆に英語の一語が日本語のいくつもの言葉をまとめているもの、辞書の訳語をそのまま使うと場面に合わないものです。
一語ずつ覚えるより、場面ごとに覚える方が確実です。足が痛いと言いたいとき、痛いのはどこなのか。お客様は店の客なのか、取引先なのか。日本語では考えずに済んでいた区別を、英語は文を作るたびに求めてきます。